【獣医師解説】避妊手術について

「避妊手術はした方がいいですか?」と聞かれることがよくあります。
当院では子どもを産ませる予定がなければ、早め(6ヶ月齢〜初回発情前まで)に避妊手術することをおすすめしています。
全身麻酔のリスクはありますが、それを上回るメリットがあると考えられるからです。

今回は避妊手術について、その方法とメリットについて解説しましたので参考にしてみてください。
またここ最近未避妊であることに起因する病気に遭遇することが多かったので、その症例についても紹介します。
※少しグロテスクな写真がありますので苦手な方はご注意ください。

避妊手術とは

全身麻酔下でメスのわんちゃん、猫ちゃんの「卵巣および子宮」を摘出する手術です。
これにより発情は起こらなくなり、もちろん妊娠することもできなくなります。
基本的に開腹して手術を行います。当院ではわんちゃんは基本的には1泊入院していただいています。
※猫ちゃんはお預かりのストレスもありますので日帰りのことが多いです。

※手術の方法(開腹して行うか、腹腔鏡を用いた方法か、卵巣のみ摘出するかなど)や費用(用いている設備や縫合糸、麻酔管理、鎮痛剤の有無などにより左右されます)、術後管理(エリザベスカラーは必要か、術後の散歩は可能かなど)、抜糸までの期間などは動物病院によって異なりますので、かかりつけ病院に問い合わせてください。

当院ではより安全で動物たちの負担の少ない手術を実施するために、「サンダービート」を福井県で初めて導入しました。

避妊手術のデメリットは?

  • 全身麻酔が必要
    全身麻酔の前に血液検査やレントゲン検査を行なうことで、内臓や心肺機能に問題がないことを確認してからの手術になりますが、
    検査で問題が無くても、麻酔薬に対するアレルギーや特異体質などによる予期せぬ麻酔事故が発生する可能性は0ではありません。(0.01%-0.3%という報告があります)
    これは若い子でも高齢の子でも同じですが、高齢になり持病を抱えている場合や疾患により状態が悪くなっている場合にはさらにリスクが高くなるため、
    若くて元気なときに手術する方がより安全と考えられます。
    ※「高齢だから・持病があるから麻酔がかけられない」ということではありません。
  • 太りやすくなる
    避妊すると代謝が3割ほど落ちると言われています。
    これは術後に適切なフードを与えることでコントロールすることができます。
  • 妊娠ができなくなる
  • ホルモン反応性尿失禁
    大型犬で多く認められます。6ヶ月齢以前での避妊手術により発生頻度が上がるという報告があります。

避妊手術のメリットは?

  • 望まない妊娠の予防
    すぐ近くにオスがいなくても、脱走してしまった時、お散歩で少し目を離した時などのタイミングで交尾してしまうことがあります。
    交尾を介して感染症にかかってしまうこともあります。
  • 性ホルモンによるストレスや体調不良の予防
    未避妊のメスは発情時に性ホルモンによる行動変化が起こります。
    わんちゃんは偽妊娠をすることがあり、乳汁の分泌や巣作り行動をすることがあります。
    中には発情のストレスで食欲が落ちたり、攻撃的になる子もいます。
  • 乳腺腫瘍や子宮などの病気の予防
    未避妊のメスは7才以上のシニアになると性ホルモンに関連した疾患が多発します。
    詳しくは後述します。
    病気になってから手術する場合の費用は、若い時に行う避妊手術の3〜10倍以上かかることもあります。

わんちゃん・猫ちゃんともに寿命が長くなっている現代では、避妊手術の主な目的は病気の予防です。
避妊手術を行い病気を予防した結果、未避妊の子よりも寿命が長くなると報告されています。

乳腺腫瘍

わんちゃんの乳腺腫瘍は約50%、猫ちゃんでは約90%が悪性(乳癌)です。
初回発情前に避妊手術を行うと、その発生率はかなり低くなります。(0.05%)
2回以上発情がきた場合は、避妊手術を行なっても未避妊の子と発生率は変わらず、26%ほど(4頭に1頭)と言われています。

わんちゃんの乳腺腫瘍は細胞診では良悪の判定をすることが困難であり、診断は切除して病理検査を行う必要があります。
ただし
・腫瘍が大きくなるスピードが早い
・赤みや熱感がある
などは悪性の所見ですから、すぐに動物病院に相談してください。

猫ちゃんの場合はほとんどが悪性ですから、お腹にしこりがあったらすぐに相談してください。

<症例紹介>
ボストンテリア 12歳 未避妊メス
「乳腺にしこりがあり、他院で乳腺炎といわれた」という主訴で来院されました。
身体検査では乳腺部に多数の腫瘤が認められ、特に右第5乳腺部分はかなり大きな腫瘤を形成し赤く腫れていました。
気にして舐めてしまい自壊している部分もありました。
経過から悪性である可能性が高く、検査では肺転移は認められませんでしたが、肝臓に転移している可能性がありました。
飼い主様と相談の上、QOL維持のために乳腺の全摘出を行いました。
※転移が認められる場合は手術適応外となり手術しないこともあります。


病理検査の結果、「乳腺癌(写真左の赤くただれている部分)」および多数の「良性乳腺腫」、「リンパ節転移あり」と診断されました。

この子は高齢でしたがとても大きな手術を頑張ってくれました。
術後の経過は良好でしたが、手術から2ヶ月ほどで乳腺癌の脳転移が原因と思われる痙攣や神経症状を呈し、永眠しました。

子宮水腫・子宮蓄膿症

どちらも子宮の中に液体が溜まる病気ですが、子宮水腫は水が、子宮蓄膿症は膿が溜まります。
子宮水腫の場合は症状が出ることは少なく、健康診断で偶発的に見つかることが多いです。
しかしそのまま放置しておくと、水の溜まった子宮に細菌が感染し、子宮蓄膿症へと進行することもあります。
未避妊のシニア犬の2頭〜4頭に1頭で発生するという報告もあります。猫でも発生します。

子宮蓄膿症は
・食欲が落ちる
・元気がない
・たくさん水を飲み、たくさんおしっこをする
(・陰部から膿が出る ←出ないこともあり、出ていても自分で舐めて気づかないこともあります)
といった症状が出ます。
菌や毒素が全身に回り敗血症をおこしたり、膿の入った子宮が破裂したりしてショック状態になって運び込まれてくることもあります。
未避妊のシニアの子は注意深く観察をしてください。
子宮蓄膿症についてさらに詳しくはこちらをお読みください。

<症例紹介>
トイプードル 7歳 未避妊メス
「食欲がなく、お腹が腫れている」という主訴で来院されました。
お腹がパンパンだったためエコーで確認したところ、お腹のほとんどが液体を容れた子宮で占拠されていました。
子宮蓄膿症と診断し、破裂の危険性があったため緊急手術を行いました。
7.3kgの子から1.6kgもある子宮を摘出しました。


重度に拡張した子宮により他臓器が圧迫されていたため術後の合併症が心配されましたが、幸いすぐに回復し、数日後には元気に退院できました。

その他にも、卵巣嚢腫や卵巣腫瘍などに罹患することもあります。

メスの子犬、子猫を迎えると、たった数ヶ月後には避妊手術をするかどうかの選択をしなければなりません。
メリット、デメリットを正しく理解していただき、ご家族で話し合って選択していただけたらなと思います。

避妊手術についてお困りのことがあればご相談ください。